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カシュビ、ポーランドの友人~2015ヨーロッパ③
ポーランドの北部、カシュビ地方で友人のポーランド人と落ち合った。
彼はドイツとの国境に近い街に住んでいるが、この湖と森の地に憧れて、土地を買い、家を建てようとしていた。彼の土地は森に拓かれた原野の丘にあり、そこから麦畑が見下ろせた。それは、美しい土地だった。
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彼は、以前からカシュビについて話してくれていた。そこに点在する湖はほとんど手つかずで、神秘的だった。森は深く、透明だった。そして、その森の中を、廃線になった鉄道の線路がなかば落ち葉と腐葉土に埋もれて、木立の中へと消えていた。それはベルリンとグダニスクという軍港を結んでいた線路で、この土地が戦前はドイツ領だったことの痕跡でもあった。ヨーロッパの紛争史において、ポーランドはドイツとソ連という大国に挟まれ、侵略され、虐殺され、貶められてきた。ドイツはカシュビを領土とし、ソ連はポーランドに侵攻し、そしてポーランドという国名はその頃、消えた。ワルシャワは蜂起し、ドイツに破壊された。ゲットーのユダヤ人たちは殺戮された。
しかし、カシュビの森に残ったのは、腐葉土になかば埋もれたその線路の廃墟だけだった。
湖はどこまでも透明で、そして冷徹だった。それは人の歴史も営みも、あらゆるものを飲み込んで、静謐だった。森は果てしなく、ロシアの大地まで続いているようだった。

そして友人は、湖についてのもうひとつの話を僕に語ってくれた。
それは彼がかつて一緒に暮らしていた犬のことだった。
その犬は、黒いラブラドールだった。ほとんどすべてのラブラドールが、あるいは犬たちのすべてがとても聡明で、友情と信頼にあふれ、人間にとって最良の親友であるように、そのラブラドールも彼の最高の親友だった。彼らは魂によって結ばれ、お互いを愛し、お互いを必要としていた。彼らは最高のペアであり、深く理解しあっていた。
ラブラドールは、まだ若かった。しかしある時、致命的な病を患った。
彼の親友は獣医によって、余命数ヶ月もないことを宣言された。そして、このまま病が進行すれば、親友は全身を激痛に苛まれ、その苦痛のなかで死んでゆくことになるのだと言われた。
彼は、そして獣医も、ラブラドールを安楽死させることを考えた。それ以外に、親友を苦痛から救う道は残されていなかった。
彼は親友の命の「終わらせ方」について考えた。それは獣医の手による一本の注射器によってなされるべきだろうか。彼は別の可能性についても考えた。そうして思いついたのが、親友を湖へ連れていき、最期の水泳を楽しませた後に、そのまま、湖の水によって終わらせることだった。
親友はなんといってもラブラドールだったから、泳ぐことがとても好きだったのだ。

彼は車に親友を乗せ、湖へ出かけた。最後のドライブだった。
彼はまず自分が湖に腰の深さまで入り、そこで親友を呼んだ。親友は嬉しそうだった。とても華やかな顔をしていた。そうして病に冒された体で、彼のもとまで泳いできた。親友は笑っていた。彼は、抱き寄せた。親友は、彼にしがみついた。大好きな湖の中で。
彼はすべてを終わらせようと思った。親友の苦痛を取り除き、この穏やかで透明な水の中に彼の生命を解き放とうと思った。しかし、彼の手は親友を抱きしめるばかりで、その命を取り除くことはできなかった。
彼の手には、愛情だけしかなかったし、その愛情は与えるだけで、奪うことに使われたことは一度としてなかったのだった。彼の手は親友を慰撫し、彼の指は親友を愛した。
湖の中で、彼はただ親友を抱きしめた。涙がこぼれ続けた。ここから先へ進むことはできなかったし、何ひとつ後戻りすることもなかった。彼はただ湖の中で立ちすくみ、親友を抱きしめ、親友を愛する以外にできることは何ひとつなく、たくさんの涙を流し続けた。親友は痛み、その痛みの理由すらわからず、まもなく終わる命の最後の灯火の中で、彼と抱き合った。
「ごめんよ」彼は親友に語りかけた。
彼は親友を抱きしめたまま、湖から岸に歩いた。親友を車に乗せ、湖をあとにした。彼には、終わらせることなどできなかった。彼は親友と一緒に街に戻り、獣医のもとへ行った。

その彼と、湖へ行ったのだった。
その湖が、彼が親友と一緒に行った湖だったかどうかは聞かなかった。僕たちは湖で話をした。まだ9月なのに湖を渡る風は晩秋のように冷たく、湖面は透明に冴えていた。
カシュビ。2015年9月中旬。
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by rhyme_naaga | 2015-10-28 22:40 | Essay
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