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『ふたつの心臓を持つ大きな川』というのは、E・ヘミングウェイの処女短編集『我らの時代に』に収録されている小説である。かつて小説家になろうとした若い頃、確か24歳の頃、言葉のひとつひとつに至るまで、くまなく読んだ小説。この小説に通底する抑制された悲しみは、一体どの言葉から生まれてくるのだろうか。それを知りたかった。
川のことを考えていて、ふとこの小説のことを思い出したのだった。まあ、いい。書きたいことはまったく別のことだった。 あれは僕が30歳頃のことだったか。生まれ故郷の上流の川で一人、泳いでいると、すぐ近くで鮎釣りをしていたおじさんが声をかけてきた。 「なあ、にいちゃん、すまんけど、もうちょっとこっちに来て泳いでくれんかな。鮎がな、そのへんにようけおるんや。にいちゃん、ちょっと潜って、そこらへんの鮎をこっちに寄せてくれや。そしたら、釣れそうやでな」 僕はおじさんの言うことを聞いてあげた。おじさんの指差すあたりの淵まで泳ぎ、適当にあたりをつけて、何度も潜った。 「こんなんでええかな」僕が川から顔を覗かせて言うと、 「おう、ええよ。ありがとな」 それから僕は岸に上がり、大きな石の上に腰かけた。おじさんが、ニヤリと笑いかけてくる。 「にいちゃん、どこの衆や?」 僕は母の生まれ育った家の場所を告げる。ふうん、とおじさんは頷き、それから言う。 「にいちゃん、どれくらい潜れる?」 「あそこらへんから」と僕は上流を指差し、そして今度は下流を指差す。ざっと70〜80メートルくらいだろうか。「あそこらへんまで」 「ふうん」おじさんが、にったりと笑う。「まだまだやな。わしが若い頃は、あそこから」と言いながら、かなり上流の瀬を指差し、ずっと遥か下流まで指をまわす。「あそこまで潜ったぞ」 「ふうん、そりゃ凄いね」 「はっはっは」おじさんは笑う。得意げに煙草に火をつけ、どや、と言わんばかりにガアッと煙を吐く。「昔な、わしには許嫁がおってな」 「許嫁?」 「そう、いいなずけ。ま、かつての嫁やけどな」おじさんは言った。「この岸に立ってな、わしが潜るのをずっと見とったんや。わしは、ほれ、かっこええとこ見せなあかんやろ? ほうやで、まあ、ガアッと潜ったったんや。んでな、ただ潜るだけやと芸があらへんやろ? そうやで、潜りながら、こう鮎を手掴かみにしてな、採ったんや。鮎を手掴かみにするやろ? でも手は2本しかあらへんで、2匹捕まえたら終わりやろ? そうやでわしはな、採った鮎を海水パンツの中に入れてな、そうしながら潜ったんや」 「海水パンツの中に、鮎ですか?」 「そうや。もう何匹も鮎、入れたぞ」 「何匹ですか?」 「ようけや」 「凄いね」 「はっはっは」おじさんはまた笑った。「もうな、わしの海水パンツの中は鮎だらけや。水から上がったら、パンツの中、ようけピチピチ言いよる。パンツの下から鮎が頭出してピチピチやったりな。はっはっは。もう、そら大漁やな。はっはっは」 「で、許嫁は?」 「は? 何がや?」 「許嫁はどうしたんですか?」 「そりゃ感心したがなァ」 「感心した?」 「そう、わしに惚れなおした」 「海パンに鮎ピチピチで?」 「そうや、ええとこ見したったでな」 「ふうん」僕は考えた。ま、男女のことは当人同士にかわからない。何をかっこいいと思うかは当の女性次第だし、海パンに鮎ピチピチがかっこいいと思う女性も、まあきっといるに違いない。いや、かっこいいに違いない。男は鮎を手掴かみにして、なんぼ。大漁で、ピチピチで、横チンならぬ横鮎で、クール。 「ふうん」僕はもう一度頷いた。「かっこええとこ見したんですね」 「そや」おじさんは言う。「ま、許嫁っちゅうか、嫁には逃げられたけどな」 「逃げられた?」 「そう、逃げた」 「なんで?」 「愛想尽かされて」 「あかんかったんですか?」 「そう、あかんかった」 「鮎は掴まえて、嫁には逃げられた」 「はっはっは。にいちゃん、うまいこと言うな。はっはっは」 「なんで逃げられたんですか?」 「パチンコや、パチンコ。はっはっは。にいちゃんも、パチンコはたいがいにせなあかんぞ。はっはっは」 「で、今は独身なんですか?」 「そや、独身や。釣り三昧、パチンコ三昧や。にいちゃんも独身がええぞ、はっはっは!」 このおっさん、絶対ほら吹きやな、と思ったのであった。
by rhyme_naaga
| 2005-07-11 03:42
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