哲学者L・ヴィトゲンシュタインの言葉。
前期の主著『論理哲学論考』で哲学のすべての問題を解決したと彼は考えたが、後になってその考えをみずから覆した。
その本を書き終えた後、彼は小学校の教師となり、ガーデナーとなり、建築家となった。
そして再びアカデミズムの場に戻って来た時、彼はそう書いたのだ。

私たちは前へ進みたい。そのためには摩擦が必要だ。ざらざらした大地へ戻れ!
まるでニーチェの言葉のように力強く、それは巨大な海風のように、僕たちの船の帆を膨らませる。
そう、私たちは前へ進みたいのだ。大きな海を渡りたいのだ。
自分の歩みの確かな手応えを足裏に感じ、遠い地平の彼方まで自分の足で歩いてゆくのだ。
庇護するものは何もない。
そうして僕たちは傷つくが、この世界で、傷つかない者など最初から一人もいないのだ。
ヴィトゲンシュタインは僕の大学院時代のテーマの哲学者だった。
この言葉は、彼の後期の主著『哲学探究』に載っているが、昨年、新訳版が改めて出版された。それを読み直し、学生時代には見過ごしていたこの言葉に僕は魅了された。
ざらざらした大地へ戻れ!
何度でも。
何度でも。
―― 私たちは摩擦のない氷原に迷い出たのだ。そこでは、条件はある意味で理想的なのだが、しかし私たちはそれゆえにまた、先に進むこともできないのである。私たちは前へ進みたい。そのためには摩擦が必要だ。ざらざらした大地へ戻れ!