先日、東京での打合わせの折、映画『21g』を観てきた。
素晴らしい映画だった。あんな素晴らしい映画がアカデミー賞にノミネートされているというのだから、ひょっとしたらアカデミー賞も捨てたものではないのかも知れない。
主要な登場人物は3人。ショーン・ペン、ベネチオ・デル・トロ、ナオミ・ワッツ。なんとか人並みの暮らしを続けてきたお互い見ず知らずのこの3人が、ある契機によって劇的に絡みはじめ、3人が3人とも、どうしようもない破滅的な袋小路へと没落してゆく。
それがあまりにも悲しく、あまりにも美から遠ざけられ、しかし、痙攣するように生き、堕ちてゆく姿は、凄まじく真実である。
なんと言葉を尽くせばいいのか、わからない。だが、この映画は間違いなく、傑作だと思う。
ベネチオ・デル・トロ扮する男は、かつて札付きの不良で何度も監獄に出入りしていたが、イエスキリストを信じるようになって更正した。懸賞か何かで、車をもらい、それをキリストからの贈り物だと信じていたが、そのまさに神からの贈り物の車で、人を轢き殺してしまう。
そうして再び監獄へ戻った男の元に、牧師が訪れて来る。しっかりしないと地獄へ堕ちるぞ、と諭すその牧師に向かって、男が言う。自分の頭を指差しながら。
「地獄? それはな、この頭の中にあるんだ! ここが地獄なんだ!」
と。
その男の絶望。痙攣する生。
監督は、まるで涙を流しながら撮っているようだ、と思った。
堕ちてゆく3人、没落してゆく生を、涙を流しながら静かに見つめているようだと思った。救済のない映画だが、この監督の眼差しが、救済にとてもよく似た優しさなのだと思った。
カメラは、おそらく全編にわたって手持ちで撮られていると思う。その手は、確かに震えていた。
素晴らしい、素晴らしい映画だった。